第1回横浜歯科漢方勉強会 症例報告④

医)秀真会 戸塚グリーン歯科医院
渡辺秀司

歯根端切除後の難治性の根管治療に荊芥連翹湯を併用することで著効を示した1例

根切後、数年経た歯牙の保存治療については再度根切を行うか、または根管治療を行うか悩む所だが、どちらにしてもその治療方針は困難をきたすことが明らかである。今回根切を行った歯牙の再根治を行ったが根尖孔が大きいため通常の根管治療では炎症性の浸出液が止まらず根尖孔封鎖が難しい処置に対し荊芥連翹湯を投薬することで奏功した結果を報告する。

症例 ○本○子 昭和22年1月1日 女
主訴 咬合痛を伴い食事が取れない
既往歴 数年前から身体が冷え眠りが浅いとのこと。時々睡眠導入剤を使用。
5」については歯根断切除を行ったが数ヶ月前より重い感じがしている。
現病歴 身長153cm 体重52kg 血圧140-85mmHg
現症 5」のフィステル、打診痛あり(以前根切を行った歯)
口腔内所見:歯肉の状態は正常なるもやや暗赤色
5」以外の歯周ポケットは正常値を示し歯肉炎は認めない
漢方的所見 顔色はあさ黒い感じでハキハキしている 行動的
体形は普通、体力中程度 歯圧痕あり、舌下静脈怒張あり
中間証:瘀血証(水毒を伴う)

第1回横浜歯科漢方勉強会 症例報告③

エンドウ歯科 院長
遠藤省吾

急性症状を緩和する漢方薬

症例【1】
急化perで膿瘍形成し、痛みが激しい患者に抗生剤を投与するも、軽減されない場合、抗生剤と併用して黄連解毒湯(或は三黄瀉心湯)と排膿散及湯を投与により、腫脹及び疼痛が軽減した。

急化perの時に使用する漢方薬
1.黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)→血熱を止める
2.排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)→局所の化膿症

症例【2】
埋伏抜歯後、後出血し、抗生剤を投与するも予後不良の際、一日目に黄連解毒湯を服用。二日目には桂枝茯苓丸により、内出血等の症状が改善した。(瘀血除去)。

当院で抜歯に際し投薬する漢方薬
1.抜歯前後に投薬する漢方薬 : 黄連解毒湯
2.抜歯後に予後不良に対応する漢方薬 : 黄連解毒湯、排膿散及湯、立効散
3.抜歯後及び外科的処置に際し、内出血時に対応する漢方薬 : 桂枝茯苓丸

症例【3】
いびき予防のため、50歳代男性が来院。いびき予防装置印象、食事療法を指導。
(鼻呼吸改善のため、香辛料の摂取及び、水分の適正化により「いびき装置」なく改善した。

漢方医学の領域
1.食物療法…食養
2.薬物療法…湯液
3.物理療法…鍼、灸、按摩、入浴、その他

第1回横浜歯科漢方勉強会 症例報告②

鶴見大学歯学部歯科麻酔学講座・歯科東洋医学外来
三浦一恵

摂食困難なburning mouth syndromeに対して加味逍遥散が奏効した一例

症例は75歳女性.主訴は常時舌にやけどをしたようなびりびりした痛みがあり、食事、会話をするとさらに痛みが強くなり、熱い物や酸味のある物は食べられず、痛みのために不眠との事であった。

現病歴は初診から4年前、口腔乾燥を自覚して口腔外科を受診し検査を受けたが異常なく、その後、手の肢端紅痛症を発症し、口腔内の症状は消退していた。初診から1年前、口腔乾燥の再発と同時に舌の痛みが出現し、口腔外科や耳鼻科で細菌検査、血液検査を行ったが異常なく、開業歯科からの紹介で当科に来院した。

検査では舌に器質的な変化は認められず、診断的局所麻酔で除痛は得られなかった.AAOP(米国口腔顔面痛学会)のガイドラインではBurning Mouth Syndrome(口腔灼熱症候群)は臨床的に明らかな粘膜の異常や検査所見が認められないにもかかわらず、口腔粘膜の灼熱感と痛みを訴えるものである。以上の結果からburning mouth syndromeと診断した。

東洋医学的所見ではやせ型、四肢の冷え、易疲労、肩こり、便秘、腹診においては胸脇苦満、腹直筋の緊張を認めた。生活は夫の介護が10年以上続いていた。加味逍遥散は体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく精神不安などの精神神経症状、便秘の傾向、気血両虚、駆瘀血剤として使用する。瘀血と抑うつ症状を改善する目的で加味逍遥散を2週間内服させたところ、痛みは間歇的になった。夫と口論になったとき舌の痛みが強くなり、心にいら立ちがあると身体に現れることを実感し、これからは趣味であったフラダンスやコーラスを再開し、心穏やかに暮らしたいと夫に話した。初診から2か月後頃より、食事、会話時の痛みが気にならなくなり、次第に食べられる食品が増えてきた。初診から3か月後には不眠もなくなりQOLの改善がみられた。

加味逍遥散によって舌のやけどをしたようなビリビリした痛み、肩こり、便秘、不眠の症状が改善した。また、患者に対して思いやりの心で訴えを許容的に聴くように努めた結果、患者は客観的に自分の症状を語ることができた。その訴えの中に夫との関係が痛みに大きく関与していることを自覚して、患者が環境を整えることによって症状をコントロールできるようになった。

事業報告

現在、歯学部の中で、東洋医学や漢方講座を置いている大学は少ない。取り入れているとしても、少数の学校で、せいぜい特別講座として行われているにすぎず、臨床においては、口腔外科の領域で、行われているのが主体です。そのため、本来の漢方の臨床における方向性と異なり、科目臨床にかたより、歯科における漢方の普及が遅れているのかもしれません。

しかし歯科領域においては、全身的、精神的背景を持って診断し、診療する口腔外科が、もっとも漢方臨床に近くあり、唯一漢方による診療を行っていると言っていいのも事実です。

日本の漢方は長い伝統があり、科学の進歩とともに医科系大学には、その研究・教育基盤が誕生しており、医学教育においては、平成13年度に医学教育モデル・コアカリキュラムの中に「和漢薬を概説できる」という項目が組み込まれました。

現在では、全国80大学医学部・医科大学で、漢方講座、東洋医学教育がおこなわれています。薬学においては、すでに各大学において漢方の講座が置かれ、漢方生薬の学部までも設置されています。後数年後には、医師、薬剤師の国家試験には必ず、漢方の設問がでてくるでしょう。

しかし、残念ながら、歯科教育のコアカリキュラムに東洋医学は含まれていません。歯周病の治療法としての漢方の有用性は既に示されており、微小循環器障害である歯周病、咬合から来る精神的、身体的ストレス、更年期や自律神経障害からの、口腔乾燥症、舌痛症などの不定愁訴と関連が深い疾患には漢方抜きに治療できないところまできています。

漢方治療は、西洋医学と併用することで、その効果を発揮することもできます。口腔外科だけでなく、一般歯科領域においても他の専門領域で漢方を使用することで患者に恩恵を与えることができます。

現在、一人の歯科医師が西洋薬と漢方薬の両方とも健康保険内で、現在においては、限りはありますが用いることが可能であり、これは日本独自の治療形態とも言えます。そこで、横浜歯科漢方研究会を発足し、広く漢方を学ぶ「場」を提供したいと思います。西洋医学と東洋医学を組み合わせて、新しい医学の道を探ること、歯科領域においても同じことです。この研究会から仲間が増え、広く我が国の歯科医療に普及することを願っています。

平成22年度は3月26日に第一回横浜歯科漢方研究会を神奈川歯科大学附属横浜研修センターにて行い、約70名の参加があり、横浜薬科大の石毛先生の基調講演、その他教育講演、4症例報告が行われ、次に向けての手ごたえを感じました。

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