第1回横浜歯科漢方勉強会 症例報告②

活動報告

鶴見大学歯学部歯科麻酔学講座・歯科東洋医学外来
三浦一恵

摂食困難なburning mouth syndromeに対して加味逍遥散が奏効した一例

症例は75歳女性.主訴は常時舌にやけどをしたようなびりびりした痛みがあり、食事、会話をするとさらに痛みが強くなり、熱い物や酸味のある物は食べられず、痛みのために不眠との事であった。

現病歴は初診から4年前、口腔乾燥を自覚して口腔外科を受診し検査を受けたが異常なく、その後、手の肢端紅痛症を発症し、口腔内の症状は消退していた。初診から1年前、口腔乾燥の再発と同時に舌の痛みが出現し、口腔外科や耳鼻科で細菌検査、血液検査を行ったが異常なく、開業歯科からの紹介で当科に来院した。

検査では舌に器質的な変化は認められず、診断的局所麻酔で除痛は得られなかった.AAOP(米国口腔顔面痛学会)のガイドラインではBurning Mouth Syndrome(口腔灼熱症候群)は臨床的に明らかな粘膜の異常や検査所見が認められないにもかかわらず、口腔粘膜の灼熱感と痛みを訴えるものである。以上の結果からburning mouth syndromeと診断した。

東洋医学的所見ではやせ型、四肢の冷え、易疲労、肩こり、便秘、腹診においては胸脇苦満、腹直筋の緊張を認めた。生活は夫の介護が10年以上続いていた。加味逍遥散は体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく精神不安などの精神神経症状、便秘の傾向、気血両虚、駆瘀血剤として使用する。瘀血と抑うつ症状を改善する目的で加味逍遥散を2週間内服させたところ、痛みは間歇的になった。夫と口論になったとき舌の痛みが強くなり、心にいら立ちがあると身体に現れることを実感し、これからは趣味であったフラダンスやコーラスを再開し、心穏やかに暮らしたいと夫に話した。初診から2か月後頃より、食事、会話時の痛みが気にならなくなり、次第に食べられる食品が増えてきた。初診から3か月後には不眠もなくなりQOLの改善がみられた。

加味逍遥散によって舌のやけどをしたようなビリビリした痛み、肩こり、便秘、不眠の症状が改善した。また、患者に対して思いやりの心で訴えを許容的に聴くように努めた結果、患者は客観的に自分の症状を語ることができた。その訴えの中に夫との関係が痛みに大きく関与していることを自覚して、患者が環境を整えることによって症状をコントロールできるようになった。